依存症は意志の弱さではない——教職員向け研修から考える子どものSOS

大阪府立淀商業高等学校で依存症研修を実施しました

「自殺も依存も、根っこは同じですね。」——研修後、ある先生がそっとつぶやいてくださったこの一言が、今もこころに残っています。令和8年5月18日、大阪府立淀商業高等学校にて、2年連続となる教職員対象研修を行わせていただきました。今回のテーマは「スマホ・ゲーム依存症」。でも講演を通じて浮かび上がってきたのは、依存も自傷も自殺も、その奥にある「助けてと言えない孤独」や「誰かにわかってほしい痛み」は、ひとつながりだということでした。


2年目の出会い——淀商業高等学校の先生方へ

昨年度、大阪府こころの健康総合センターのご縁で、大阪府立淀商業高等学校にお伺いし、「自殺・自傷行為」をテーマに研修をさせていただきました。そして今年度も、校長先生はじめ先生方があたたかく迎えてくださり、再びこの場に立たせていただけることになりました。

正直に言うと、2回目をお声がけいただけたことが、純粋にうれしかったです。昨年の研修が少しでも現場のお役に立てていたのかな、と思うと、こちらこそ励みをいただいた気持ちでした。先生方の前に立つたびに感じるのですが、教育の現場にいる方々は本当に、子どもたちのことをよく見ていて、よく考えていて、よく悩んでいます。その誠実さがいつもこちらの背筋を正してくれます。


「依存症になるのは、人間だから」

今回の講演は、「ヒトはなぜ依存症になるのか」という問いから始めました。私の答えは、「人間だから」です。

脳には「報酬系」と呼ばれる仕組みがあり、楽しいことをしたとき、誰かに褒められたとき、目標を達成したときに「ドーパミン」という物質が分泌されます。これは意欲や喜びの源であり、生きていくうえでなくてはならない仕組みです。スマホやゲームはこの仕組みを巧みに刺激するよう設計されており、使い続けることで「もっともっと」という感覚が生まれ、やがてコントロールが難しくなっていきます。

依存症は、弱い人がなるものでも、だらしない人がなるものでもありません。人間の脳が持つ、ごく自然な仕組みが、ある条件下で行き過ぎてしまった状態です。この視点を先生方と共有できたことが、今回の講演でまず大切にしたかったことでした。


「自殺も依存も、根っこは同じ」——先生の言葉が教えてくれたこと

研修の後、一人の先生が話しかけてくださいました。「昨年の自傷・自殺の話と、今年の依存症の話、テーマは違うけれど、根っこは同じですね」と。

その通りだと思いました。依存症になりやすい人の特徴として、自己評価が低い、人を信じられない、本音を言えない、孤独で寂しい、見捨てられる不安が強い——こうした共通点が研究からわかっています。自傷行為も、過量服薬も、スマホへの依存も、その多くは「耐えがたい苦しさをなんとかしたい」という必死の自己救済です。

心理学者エドワード・カンツィアンが提唱した「自己治療仮説」という考え方があります。依存にふける理由は、快楽を求めてではなく、他に解決策が見当たらない中で、苦しみを和らげようとした行動だ、というものです。子どもたちが問題行動を起こすとき、その背景には必ず「助けてほしい」というこころの声があります。

だから、自殺予防も依存症予防も、アプローチの入口は違っていても、目指すところは同じです。子どもが「この人になら話せる」と感じられる大人が、そばにいること。それがすべての出発点だと、改めて感じています。


思春期という、嵐の季節

エリクソンの発達理論によれば、思春期は「自分とは何者か」という問いに揺れ続ける時期です。親からの自立を求めながら、でも不安で、孤独で、どこにも居場所がないような感覚になることもある。いらいらしたり、ふさぎこんだり、突然ひきこもったりするのも、多くの場合この時期の正常な発達のプロセスの一部です。

だからこそ、その嵐の中にいる子どもたちにとって、毎日会う先生の存在は、思っている以上に大きい。「先生がいつも気にかけてくれていた」というたった一つの記憶が、何年も後になってその子を救うことがあります。


SOSは、静かにやってくる

子どもたちのSOSは、大声で泣いて助けを求める形ではなく、むしろ静かに、ひっそりとやってきます。ちょっと元気がなくなった、遅刻が増えた、ぼんやりしていることが多くなった——そういった小さな変化に気づける目と、気づいたときに「どうしたの?」と声をかけられる関係性が、何よりの予防です。

自傷行為への対応についても今回お伝えしました。頭ごなしに「やめなさい」と禁止するのではなく、まずは「話してくれてよかった」という姿勢で受け止めること。自傷行為は、多くの場合「こんなにしんどいんだ」という必死のメッセージです。そのメッセージを受け取ってもらえた経験が、子どもの回復の土台になります。


まとめ——「信頼関係」が、すべての土台

講演の最後にご紹介した言葉を、ここでも記させてください。依存症治療の大家の先生がおっしゃった言葉です。

「ひとを信じられるようになると、ひとに癒されるようになります。ひとに癒されるようになると、薬物に酔う必要はなくなります。薬物問題は人間関係の問題です。回復とは、信頼関係を築いていくことです。」

依存も、自傷も、自殺も——その根っこにあるのは、孤独と不信です。そして回復の根っこにあるのは、誰かとの信頼関係です。学校の先生方は、毎日子どもたちのそばにいて、その信頼関係を育てられる、とても大切な存在です。

淀商業高等学校の先生方、2年間ありがとうございました。先生方の子どもたちへの真剣なまなざしに、こちらがたくさんのものをいただきました。今後も地域の子どもたちのこころの健康のために、微力ながら貢献していきたいと思っています。

院長 池田俊一郎

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