「物忘れが気になったら」物忘れ外来で行う鑑別診断のすべて
「最近、物忘れがひどくなった」「同じことを何度も聞いてしまう」――そんな症状が気になって物忘れ外来を受診される方は少なくありません。しかし、物忘れ外来での診察は、単に「認知症かどうか」を判定するだけではありません。物忘れの原因には、認知症以外にも治療によって改善しうる疾患が数多く隠れています。今回は、物忘れ外来で必ず行う「鑑別診断」について、院長が詳しくお伝えします。

物忘れ外来とはどんなところ?
物忘れ外来とは、記憶力の低下・認知機能の変化を主訴とする患者さんを専門的に診察する外来です。問診・神経心理検査(認知機能検査)・血液検査・画像検査などを組み合わせ、物忘れの「原因」を丁寧に探っていきます。
大切なのは、「認知症である・ない」という二択ではなく、「なぜ物忘れが起きているのか」を正確に鑑別することです。原因によっては、適切な治療や生活改善で症状が大幅に軽減する場合があります。
物忘れの原因はさまざま――鑑別が重要な理由
物忘れや認知機能の低下は、認知症だけが原因ではありません。以下のように、治療可能な疾患が背景にあるケースも少なくなく、見落としてしまうと症状が進行してしまうことがあります。
物忘れ=認知症、ではありません。まず「なぜ忘れるのか」を突き止めることが、物忘れ外来の最も重要な役割です。
物忘れ外来で鑑別が必要な主な疾患
① アルツハイマー型認知症・その他の認知症
物忘れ外来を受診される方の中で最も多いのが、アルツハイマー型認知症をはじめとした認知症です。ただし、認知症にも種類があります。
- アルツハイマー型認知症:記憶障害から始まり、徐々に進行する
- レビー小体型認知症:幻視・パーキンソン症状・睡眠障害を伴うことがある
- 血管性認知症:脳梗塞・脳出血などの脳血管障害が原因
- 前頭側頭型認知症:人格変化・行動異常が目立つことがある
それぞれ進行のパターンや治療方針が異なるため、画像検査(MRI・CTなど)や専門的な神経心理検査によって正確に鑑別することが必要です。
② うつ病(仮性認知症)
うつ病による意欲低下・集中力の低下・思考スピードの低下は、認知症ときわめてよく似た症状を呈することがあります。この状態は「仮性認知症」とも呼ばれ、抗うつ薬などによる治療で認知機能が回復するケースがあります。
ご高齢の方のうつ病は、「気分が落ち込む」という訴えよりも、「何もやる気がしない」「食欲がない」「物忘れがひどくなった」という形で現れることが多く、見逃されやすいのが特徴です。
③ 甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンが不足すると、全身の代謝が低下し、記憶力の低下・倦怠感・気力の低下・抑うつなど、認知症に似た症状が現れることがあります。血液検査(甲状腺ホルモン値の測定)で診断でき、ホルモン補充療法によって症状が改善することが多い、治療可能な疾患のひとつです。
④ 正常圧水頭症(NPH)
脳脊髄液が脳室内に過剰にたまる疾患で、「歩行障害(小刻み歩行)」「認知機能の低下」「尿失禁」の三徴候が特徴的です。画像検査で診断でき、シャント手術(脳脊髄液を排出するための手術)によって劇的に症状が改善するケースもある、見逃してはならない疾患です。
⑤ 慢性硬膜下血腫
頭部への軽い打撲をきっかけに、脳を包む硬膜の内側に血腫(血の塊)が少しずつ溜まる疾患です。高齢者では転倒などで起こりやすく、数週間〜数ヶ月後に頭痛・手足のしびれ・物忘れ・ぼーっとするなどの症状が出現します。CTで確認でき、外科的処置(穿頭血腫洗浄術)で多くが回復します。
⑥ ビタミン欠乏症(ビタミンB12・葉酸など)
ビタミンB12や葉酸の欠乏は、神経障害や認知機能の低下を引き起こすことがあります。食事の偏りや吸収障害が原因となることが多く、血液検査で診断可能です。補充によって改善が期待できるため、必ず確認すべき項目のひとつです。
⑦ 薬剤性認知機能障害
複数の薬を服用されている高齢者の方では、薬の副作用や薬同士の相互作用によって認知機能が低下することがあります。睡眠薬・抗不安薬・抗ヒスタミン薬・抗コリン薬などが関与するケースが多く、処方内容の見直しだけで症状が改善することもあります。
お薬手帳はご持参ください。処方内容の確認は、鑑別において非常に重要な情報になります。
⑧ 軽度認知障害(MCI)
認知症と健常の「中間段階」とされるのが、軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)です。日常生活には大きな支障はないものの、記憶力などの認知機能が年齢相応以上に低下している状態です。MCIの段階で適切な介入(生活習慣の改善・認知機能訓練・必要に応じた薬物療法)を行うことで、認知症への進行を遅らせられる可能性があります。
物忘れ外来での検査の流れ
当院の物忘れ外来では、以下のような流れで診察・検査を進めています。
- 問診:いつ頃から・どんな症状が・どのように始まったか、生活歴・既往歴・服薬状況などを詳しくお聞きします
- 神経心理検査:MMSE(ミニメンタルステート検査)・MoCA(モントリオール認知評価)などの認知機能スクリーニング検査を行います
- 血液検査:甲状腺ホルモン・ビタミンB12・葉酸・血糖・炎症反応など、物忘れに関係しうる項目を確認します
- 画像検査:頭部CT・MRIにより、脳萎縮の程度・脳血管病変・血腫・水頭症などを確認します
- 診断・ご説明:検査結果をもとに診断し、治療方針・今後の経過観察についてご本人・ご家族にわかりやすくお伝えします
受診の際のポイント・ご家族へのお願い
物忘れ外来では、ご本人だけでなく、日頃の様子をよく知るご家族の方に同席していただけると、診察がよりスムーズに進みます。ご本人は症状を正確に把握しにくいことが多いため、周囲からの情報が鑑別に欠かせません。
また、以下のものをご持参いただくと診察がより充実します。
- お薬手帳(現在服用中のすべての薬)
- 保険証・診察券
- これまでの検査結果・紹介状(お持ちの方)
まとめ
物忘れや認知機能の低下は、すべてが認知症というわけではありません。うつ病・甲状腺疾患・正常圧水頭症・慢性硬膜下血腫・薬の副作用など、適切な治療で改善が見込める疾患が数多く存在します。だからこそ、物忘れ外来での丁寧な鑑別診断が重要なのです。
「年のせいだから」と諦めず、気になる症状があれば、ぜひお早めにご相談ください。早期に正確な診断を行い、その方に合った対応を一緒に考えることが、私たちの使命だと考えています。
当院では、物忘れ・認知機能の低下が気になる方を対象とした物忘れ外来を設けています。「認知症かもしれない」「家族の物忘れが心配」など、どんな些細なことでもお気軽にご相談ください。ご予約・お問い合わせはお電話またはWeb予約フォームからどうぞ。


